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【街景寸考】小笠原選手の髭
Date:2015年11月25日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
サラリーマン時代、ときどき髭を剃らずに職場に通っていたことがあった。頬や口の周りの毛が他の男性よりも少なかったので、1、2日くらい剃らなくても無精に見られることはなかった。だて髭を生やしてみようと何度か思ったこともあった。髭で自分の印象がどう変わるのかが面白く思え、冒険心もあったからだ。
しかし、だて髭を続けていくには、毎日の手入れがわずらわしいような気がして、実践することはなかった。だて髭を生やした者には、学者、弁護士、芸術家などのインテリ層が多いようだ。たまに公務員の中にもだて髭を生やした者がいたりするが、大方のサラリーマンの場合は生やしていない。
インテリ層に髭が多いのは、人に頭を下げる機会が職業柄あまりないからだと推察できる。普通のサラリーマンは、顧客や取引先、それに会社の上司にも頭を下げなければならない。髭を生やせば横柄に見られることがあり、余計なリスクを背負うことになりかねない。リタイアした高齢者に髭が多いのは、こうした気遣いをしなくてよいからだ。
先ごろプロ野球を引退した小笠原選手も、現役バリバリの頃は髭を生やしていた。特に日本ハム時代に活躍していたときの小笠原選手は、野武士のような凄味のある髭が印象的だった。髭が彼の原動力になっているに違いなかった。ところがジャイアンツに入団して、髭をそり落としたときはがっかりさせられた。ジャイアンツのしきたりに合わせるため、気を遣ったのだ。髭を落とせばパワーが落ちるのではないかと心配したが、そのとおりになった。
ますますジャイアンツが嫌いになった。ジャイアンツで活躍できたのは最初の3、4年間だけだった。髭を剃ったのが原因である。バッターボックスに立った髭なしの小笠原選手の姿は、去勢された何かの動物のようで、気の毒でならなかった。その後中日ドラゴンズに入団してからは髭の顔に戻ったが、ときすでに遅く髭がしおれて見えた。
自分は今、余生を過ごす身なので髭のことで誰に気を遣うこともない。だから無精ひげを生やしまくっている。むさ苦しくなったと思えば剃るという生活リズムである。またそのリズムが心地いい。