【街景寸考】不安に思うこと

 Date:2016年02月10日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 「のぞき趣味」とは「他人の私生活や秘密をのぞき見て喜ぶ性癖」と辞書に書いてあった。のぞき魔の場合は別として、のぞき趣味は誰にでも多かれ少なかれ具わっているように思う。他人の私生活をのぞき見するのは卑しい行為ではあるが、のぞいて見たいという欲求につい負けてしまうことが多い。

 のぞいてみたいと思う対象は、他人にのぞき見されたら困るような場面であり、見たときに卑しい笑いを浮かべてしまうような場面でもある。例えば、近所の家で夫婦が茶碗を投げ合って喧嘩しているところや、年頃の娘が片尻を浮かして屁を放ったところなんかがそうだ。幸せそうな楽しそうな場面は、のぞき見の対象としては正直少しも面白いとは思わない。

 人間に具わったこの性癖を巧みに利用して金儲けをしているのが、テレビのワイドショーや週刊誌・スポーツ紙などのメディアだ。これらメディアは芸能人や有名人の隠し事をネタにするため、プライバシーの領域にまで土足で上がり込んできてはのぞき、暴露しようとする。卑しい買い手がいるので、卑しい売り手がのさばるという構図の典型だ。

 メディアのこうした卑劣な行為を非難したところで、その声はどこにも届くことはない。届いたとしても「報道の自由」を錦の御旗にして、その声はかき消されてしまう。それに、のぞき見報道を欲している人々もたくさんいるので、多勢に無勢である。

 本来「報道の自由」というのは、政治が強権的な方向へ暴走しないよう監視する国民の権利の一つではなかったのか。芸能人らのプライバシーを暴露する「報道の自由」には、大いに違和感がある。むしろメディア権力の暴走行為だと言ってもいいのではないか。

 S M A Pの解散騒動のときもメディアは悪のりをしていた。騒ぎに騒ぎ、彼らを「特別の存在」と評し、その存続を切望するかのような芝居を繰り返していた。謝罪会見があったときは、N H Kまでもニュースで取り上げ、毎日新聞も翌日の朝刊に掲載していたようだ。しかも1面に、である。こうしたメディアのメンタリティを不安に思う。

 メディアが民度を高める方向へともう少し軌道修正してくれたらと思う。今、世界には内戦や世情不安で逃げまどう約6千万の難民がいる。飢餓に苦しむ約8億5千万の人々がいる。この人たちがS M A Pの解散報道で連日騒いでいた日本のことを知ったらどう思うのだろうか。この国の平和ぼけが恐ろしい。