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【街景寸考】お金を拾ったときのこと
Date:2016年02月17日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
最近、立て続けに二度お金を拾った。一度目は銀行だ。2枚の1万円札がばらけたまま来客用の長椅子の上にあった。足が反射的にそちらへ向き、にじり寄るような歩き方になった。2枚の札を手にしたときは誰からも見られていた様子はなかったので、一瞬よこしまな考えが走った。ところが足は自分の意に反して窓口の女性職員の方へ向かっていた。自分の中で善と悪が戦い、瞬時に悪が負けたような感じだった。
「これ、そこに落ちていましたよ」。心にもなかった言葉を発している自分がおかしくもあり、悲しくもあった。女性職員は直ぐに事情を察して笑顔を作り、「ありがとうございます」と頭を下げて受け取った。よこしまな考えがどこかに飛んで行ったせいか、お金を渡した途端に心臓の拍動が平常に戻っていた。念のため「これで良かったのだ」と自分に言い聞かせたが、わだかまりがしばらく心の中に残っていた。
自宅に戻ってから間もなくして銀行から電話があった。「あの後、落とし主の方が来られましたので、お渡しいたしました。本当にありがとうございました」。あのとき窓口にいた女性職員の声だった。短い言葉の中で努めて感謝の気持ちを伝えようとする声だったので、健気な印象を受けた。
数日後、またお金を拾うはめになった。今度は駅舎の自動券売機だった。切符を買い、お釣りを取ろうとしたら、千円札が束になってお釣りの取出口からベロを出しているようにしてあった。誰かがお釣を取るのを忘れて行ったのだ。今度もよこしまな気持ちがないことはなかったが、このときも自分の意に反した行動に出た。改札口から事務所の方に身を乗り出して「すみませーん」と大きな声で叫んだのだ。一人いる駅員がたまたまいなかったようで、事務所の奥からも応答はなかった。仕方がないから翌朝届けようと思い、ホームに入ってきた電車に駆け込んだ。
翌朝早いうちに駅舎に向かった。まだ忘れ物としての届け出はなかった。自分の名前と電話番号を書いた封筒にその9千円を入れて駅員に手渡した。1時間ほど経ったころお釣りを取り忘れた本人から電話があった。電話口から喜んでいる気持ちがビンビンと伝わってきた。「何かお礼をしなければと思っているんですが・・・」に対して、「お気持ちだけで十分です」と丁重に断った。心にもない言葉が勝手に口をついて出ていた。
もうお金は拾いたくない。本人の手元に戻るまで煩わしく思うだけのことでしかない。