【街景寸考】青春時代を思う

 Date:2016年02月24日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 青春時代を年齢で言うなら、おおよそ中高生から20歳前半くらいだという見方が多い。独身のときであれば20代までは青春時代だと言い張る者がいる。中高年者の中にも自らの年代を青春時代だと言う者がいる。「何かにチャレンジする心があれば年齢に関係なく青春時代だ」と。中高年者のこの言い分に関しては、気持ちを若く保つことで青春の気分を味わうことができるという点では同調できるが、若い頃にしかできない経験やそのときの感情のことを思えば、同質的なところはほとんどない。

 花で例えるなら、やはり青春時代はつぼみの時期だと言える。中高生時代のときの自分は、大人になったときの自分を想像し、よくワクワク感に浸っていた。「大人になったら、あれをしてみたい、これをしてみたい」という願望で満ち溢れ、若いというだけで自分が前途有望な人間に思えることもたびたびあった。

 花が開いて大人になったとき、つぼみの時期に夢を見、希望していた生き方を実現できた者もいれば、夢だけだったという者もいる。世間的に見るなら後者の方が圧倒的に多いのは言うまでもない。たまに夢を実現できなかったことを悔やみ続ける者がいたりするが、大抵は気持ちを切り替え、分別をもって人生を歩んでいく場合がほとんどである。特に就職や結婚をした場合は、社会や家族の一員としての責任感が強くなっていくので、そうなる。

 1970年代の一時期、「青春時代」という歌謡曲が盛んに街中で流れていた。この歌詞のなかに「青春時代の真ん中は道に迷っているばかり」という一節がある。毎日が光り輝いていた中高生の時期とは大きく違い、浪人時代を含めた学生時代の自分は、この一節のように悩み、もがき苦しんでいた。大学構内の芝生に横たわりながら学友と語り合うようなキャンパスライフとは無縁であった。

 後年、この頃のことを想い出すたびに、胸の奥から苦汁が滲み出てくるような気分に必ずなったものだ。ところが50代の頃からは、この苦い想い出を寛容なまなざしで見つめることができるようになっていた。まさに「青春時代」の中で歌われる「青春時代が夢なんて後からほのぼの思うもの」である。

 今後は青春時代を振り返ることをあまりしないようにしたい。前出の中高年者のように心を青春にしながら明日を向いて生きて行きたい。今、そういう心境である。