【街景寸考】1年経ったパート労働

 Date:2016年04月06日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 パートで働き始めてから1年が経った。月・水・金の隔日出勤なので、疲れたときでも翌日は休みになるので何とか続けることができた。最低でも1年は続けたいという目標があったので、密かにその達成感を味わっている。

 カミさんには言ってなかったが、当初は「辛くなったら直ぐに辞めればいい」という気持ちがあった。その一方で、そういう優柔不断な自分と戦わなければという男気もあった。それに、「やはり65歳以上は使いものにならない」と雇用者側に思われては同年の高齢者に申し訳ないという気持ちもあった。

 職場は主にミニトマトをハウス栽培する農業生産法人だ。この職場に小うるさい50歳代のベテラン社員がいて、失敗の多かった当初は彼からしょっちゅう叱られてばかりいた。

 その叱られ方は、まるで大店の番頭が役に立たない奉公人を叱責するような物言いだった。

 ところが仕事が慣れてくると、叱られることもほとんどなくなり、物言いも変わってきた。親しみがこもったタメ口になり、最近ではタメ口の中に敬語が混じるようにもなった。彼の口から敬語が発せられるたびに、何か昇進したような気分になり、こそばゆい気持ちになることがある。

 作業が慣れてきたこととは無関係だと思うが、ハウス内で面白い現象がときどき起きるようになった。以前までは通路に転がり落ちているミニトマトを知らずに踏んでいたが、最近はあまり踏まなくなってきた。それだけではない。足裏でミニトマトを感じた瞬間、自動的に足が止まるのだ。

 足先が浮いて踵だけが着いたままの状態で止まるのだ。足裏に特殊なセンサーを付けているわけではない。こうした芸当は訓練をすればできるというものではないように思う。この芸当に自分ながら感心もし、不思議な思いをしている。このことはミニトマトの生産効率とは何の関係もない。

 今年もまたクソ暑い夏がやってくる。ハウスの中はもっと暑い。それを想うとパートを続けることをためらいたくもなるが、もう1年くらいは続けてみる気になった。根性がある方ではないが、目をつぶって突撃するような心境で臨もうと思う。