【街景寸考】続かなかった健康法

 Date:2016年04月27日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 素っ裸になって寝ると健康に良いという話を聞いたことがあった。20代の頃だ。健康に不安があったわけではなかったが、この健康法を直ぐにでも実行してみる気になった。理由はあった。当時、パンツのゴム紐が腹の周りに食い込み、痒くなったり、痛かったりしたからだ。素っ裸のまま寝るというのが、どこか刺激的な気持ちもあった。

 早速、その日から素っ裸で蒲団に入ってみた。最初は肌が直接蒲団に触れる感触に違和感があったが、体温で蒲団が温まると気分が落ち着いてきた。しかし、それはあくまで上半身でのことであり、下半身の方はいつまでも落ち着くふうではなかった。

 というのは、股間にある一物ら(「ら」というのはタマのこと)の、浮き雲のような動きが神経を煩わせた。寝返りをするたびに、一物らはあからさまに右に左にと動くのが気になって仕方なかった。

 それに「今、友人が訪ねてきたり、火事になったりしたらどうしよう」「夜中に小便をしたくなったときは、一旦パンツをはいていくべきか」という心配事も、精神の沈静を妨げているように思えた。

 果たして、この健康法は三日と続かなかった。長年下着を身に付けてきた習慣を一朝一夕に変えるのは、簡単なことではないと思った。4日、5日我慢をすれば、あるいは慣れてきたかもしれないが、そこまでするのがアホらしくなった。

 所帯をもってからは、パンツよりもフンドシの方が健康に良いという話を聞いた。このときもフンドシに興味があったので、直ぐに飛びついた。フンドシであれば紐が腹に食い込むことはないという安心感があった。早速、カミさんにサラシを買ってきてもらい、3枚ほど作ってもらった。想像通り快適だった。血行に良いという実感もあった。

 ところが、これも続かなかった。理由は、やはり股間で揺れる不規則な動きにあった。特に歩いているときは、柱時計の振り子を下げているような違和感があり、精神が乱れた。それに、パンツだったら風呂上がりに家中をうろついても平気だったが、フンドシの場合は憚られた。突然の来客があった場合、フンドシだと全裸を見られたときのような恥ずかしさがあるように思えた。

 こうした健康法は専ら女性向きなのではないか。そう思う。