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【街景寸考】採用面接のこと
Date:2016年11月09日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
現役のサラリーマンだった頃、職場で採用面接があるときは面接官をすることが多かった。ところが、その役目を何度繰り返しても、その要領を会得し、慣れるということはなかった。その都度、不快な緊張感に縛られ、重たい気持ちで臨んでいた。
採用面接は応募者にとって、大きな人生の岐路に立つ場面でもある。そんな大事な場面に、自分のような未熟者が関わってもよいのかという、恐れのようなものがあった。合否をどのように判定すればよいのかという不安もあった。仕事の能力評価は、履歴書や職務経歴書である程度できても、人間性を見極め、それを公正に評価するのは難しい。ましてや短い面接時間内でのことなので、何をか言わんやである。
「協調性はありますか」「責任感の方はどうですか」「何事にも積極的ですか」と尋ねたとしても、正直に「いいえ」と答える応募者はまずいない。逆に「はい」と胸を張って答える者がいても、その信ぴょう性は疑ってかからなければならない。実際にはこうした直截的な質問をすることはないので、遠回しの質問をしながら正体を見極めていくしかない。
わたしたちが学生だった頃は、採用面接に向けて、細かい要領や想定問答などを事前に学習し、シミュレーションするような学生はほとんどいなかった。なので、いとも簡単に面接官から自分たちの能力や性格が見破られる時代でもあった。まだ就職氷河期から生まれた「就活」という略語もなかった時代だった。
ところが、近年は面接で応募者の正体を見破るのが難しくなってきた。面接官向けマニュアルを活用して人間性を見極めようとしても、どの応募者も如才なく、そして印象良く受け答えをしてくる者ばかりである。就活セミナーを複数受講し、面接マニュアルを何度も読み込んで試験会場に乗り込んでくるからだ。
印象が良いのは外見ばかりではない。どの応募者も資質に優れ、協調性、責任感、積極性等々が揃っているように見えてしまうのだ。まさに「どこを切っても金太郎飴」の応募者ばかりという感じである。
わたしのような愚直な人間は、こうした海千山千の応募者を相手に面接官を務めることはできそうにない。取調室で刑事が「いい加減に吐いてしまえ」的な方法でしか正体は暴けなくなったのか。それほど応募者の演技力が高度になったということが、言いたかった。