【街景寸考】どんな言葉で励ますのか

 Date:2016年11月16日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 少年時代、「末は博士か大臣か」や「少年よ、大志を抱け」という言葉をよく聞かされてきた。それは少年たちに対して「大きな志を持って生きよ」「しっかり勉強して偉い人になれ」という大人たちからの励ましの言葉だった。

 かつて、博士や大臣は世間的に最高の栄達として、少年たちの理想の筆頭に挙げられる職業だった。ところが今、これらの言葉を使って励ます大人はほとんどいない。死語になりかけていると言ってもいい。少なくとも、バブル経済が弾けてからは使われていないように思う。わたし自身も子どもたちに、こうした言葉で励ました記憶はない。

 博士のことで言えば、社会的地位が下がってきたということもある。大学院の博士課程を修了して、博士という肩書を持つ者はたくさんいるし、非正規雇用で働く博士も珍しくなくなった。

 大臣という職業はどうか。テレビカメラに向かって大臣がお詫びをする映像は珍しくなくなった。政治家が大臣になりたがるのは、永田町にだけ蔓延する病原体のせいだとしか思えない時代になっている。

 「少年よ、大志を抱け」の方はどうか。この言葉も違和感を覚えるようになった。大志でも小志でも、本人が目指したい道を進み、そこで生きがいを感じることができれば、それでよいという若者が増える傾向にある。ただ、その一方で自分が何を目指したらよいのか分からないという若者が増えていることも事実だ。

 こういう若者たちに対して親や教師は「とにかく、がんばれ」「とにかく、勉強しなさい」としか言えないでいる。勉強をがんばれば有名校に進学ができ、そうすれば公務員や大手企業に就職できる可能性が高くなるからだ。しかし、子どもたちがそうした進路を希望しているのなら結構だが、そうでない場合は面白味のない人生を送ってしまうことになる。

 第一、「とにかく」という言葉を使って励ますのは無責任極まりないのではないか。「とにかく」とは、「ほかのことは別として」という意味であり、つまり「目指したい道は別として、とにかく「がんばれ」という妙な言い方になる。これでは若者たちを励ますこともできなければ、心を動かすこともできない。

 果たして、今どきの子どもたちには、どんな言葉で励ましたらよいのだろうか。