【街景寸考】黄太郎のこと

 Date:2017年01月25日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 再び猫を飼うことになった。次男がカミさんのためにネットで探し出してくれた子猫だった。カミさんには内緒で進めていたことだった。以前飼っていた猫(ソフィ)が死んでから1年が過ぎていたので、その頃合いを判断してのことのようだった。

 次男夫婦が子猫を我が家に持ち込んできた日、カミさんは嬉しそうに目を細めた。最初、カミさんは次男夫婦が飼うことにした猫だと思っていたようだったが、自分のためにもらってきたということが分かると、驚きと戸惑いの表情を見せた。

 福岡市に住む小学5年生の女の子が、自宅近くで拾ったという猫だった。拾ったときは、まだ生後間もない頃だった。この女の子の母親が、猫の里親を探すN P Oに連絡し、そのN P Oが情報サイトに掲載していたという経緯だった。

 我が家に来た当初の子猫は、見るからに弱々しかった。居間に放しても、頼りない動きをしながら「ミャア、ミャア」とただ鳴き続けるだけだった。その様子は、長女がソフィ(最初飼っていた猫)を初めて我が家に連れてきたときと同じだった。抱きかかえると、硬く骨ばった感触が手に伝わってきたので、少し驚いた。それほどその頃は痩せこけていた。

 早速翌日にはペットショップへ行き、子猫用の餌やトイレ用の砂を買ってきた。店内の傍らに陣取ったショーケースには、毛並みや毛柄が良さそうな猫や、ツンとした美人を連想させる猫が陳列されていた。どれも15万円代から20万円代もする値札が貼られていたが、野良猫との価値の違いがあまりわからないわたしには、その値札がおかしく思えた。

 ペットショップ出身の猫だからといって、頭が特別良いわけではなかろうし、特別な芸が最初からできるわけでもなかろう。確かに野良猫よりも風貌が良く見えないこともないが、可愛らしさという点では、大きな違いがあるようには思えない。妬み抜きに、そう思う。

 ソフィが死んだとき、カミさんは「もう、金輪際猫は飼わない」と言っていた。ところが突如目の前に子猫が現れたこの日、カミさんはその可愛さに負けて思わず両手で抱かかえた。次男夫婦が判断した頃合いは、実に効果的だったと言える。

 名前を「黄太郎(きたろう)」と付けた。毛色が黄色だったからだ。その黄太郎は今日もわたしたち夫婦に甘え、じゃれつき、元気に家の中を走り回っている。我が家に来てから2カ月が経った。すっかり家族の一員になっていることが嬉しい。孫たちも大喜びである。