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【街景寸考】「サザエさん」のこと
Date:2017年03月15日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
漫画「サザエさん」を初めて知ったのは、小学1年生の頃だ。知ったのは炭住街にある小さな図書館だった。それまでは炭坑関係の事務所とばかり思っていた建物が、実は図書館だった。図書館であることを教えてくれた近所の友達が、わたしを単行本になっている「サザエさん」のあるところまで連れて行ってくれたのだった。
当時、二間の狭い炭鉱長屋に住んでいたわたしは、磯野家の生活様式がまるで別世界のように思えた。広い玄関や上がり框、波平とカツオが背中を流し合う浴室、三河屋のサブちゃんが出入りする勝手口、カツオとワカメの机がある子供部屋、家族6人(タラちゃんはまだ生まれていなかった)でちゃぶ台を囲む広めの茶の間等々、どれも炭住長屋では見ることのない光景ばかりだった。
「サザエさん」は、新聞連載からテレビ放映までを合せると約70年間も愛され続けてきたことになる。そのときどきの世相を背景に、磯野家の人々の日常をユーモラスに描いてきた漫画である。特にサザエさんやカツオ、更には波平やマスオさんの早合点や勘違いなどによる失敗の数々は、どれも共感と親しみを覚えてきた。
先日、「サザエさん」の視聴率が下がっているというニュースを見た。同時間帯で放映される他局の番組に喰われているのか、同時間帯過ぎまで外出する世帯が多くなってきたからなのか、あるいはスマホに向けられる時間と重なっているのか。はっきりとした理由は分からないらしい。時代とのギャップが生じてきたのは確かなようである。
かく言うわたしも、「サザエさん」をあまり見なくなってきた。見なくなってきたのは、現役の仕事を退いてからだ。定年後のぬるま湯に浸かったような生活が続いて神経が弛んできたせいか、無意識に適度な刺激を与えてくれる報道番組の方を選択するようになったからかもしれない。逆に、現役の頃は磯野家のいかにも愉快で平穏な日常を見ることで、仕事で逆立った神経をほぐしたかったのかもしれない。
「サザエさん」のエンディングは、磯野家全員で賑やかに食卓を囲んで食事をしている場面が多い。今どきの家庭では、あまり見なくなった光景だ。この、いまだに昭和の人情を描き続けてくれているところがいい。スマホや携帯を題材にした「サザエさん」が描かれることはない。その辺の製作者の心構えがありがたい。