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【街景寸考】オレンジジュースだけでいい
Date:2017年04月05日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
わたしが子どもの頃の清涼飲料水といえば、ジュースとラムネ、サイダーしかなかった。そしてジュースと言えばオレンジジュースのことだった。いずれも町内にあった飲料工場で製造されたものだった。「三ツ矢サイダー」や「バャリース・オレンジ」も商品名だけは知っていたが、飲ませてもらったことはなかった。昭和30年代のことだ。
当時、ジュースとラムネが1本10円、サイダーは15円だった。小遣いは1日10円だったので買えないことはなかったが、その小遣いで買ったことはなかった。のどが渇けば、近くの井戸水か水道水を飲めばいいことだった。10円の小遣いは、駄菓子を買ったり、冬は焼き芋を買ったりしていた。少しでも腹を満たすことを優先させたかったのだ。
経済成長の勢いが増すにつれ、清涼飲料水の種類も数も爆発的に増えてきた。ジュースはアップルやグレープ、レモン、メロン、ピーチなどが加わり、果汁100%、「ツブツブ入り」なども次々と登場してきた。コーラなどの炭酸飲料や、ヤクルトのような乳性飲料も同様に増えてきた。お茶や水まで登場してきたときは、正直驚いた。買って飲む物だとは思わなかったからだ。
これらを何台も連ねた自動販売機があちこちに設置されるようになった。その前に立つと、あまりにも種類が多すぎてしばらく立ち尽くしてしまうことがある。思案したあげくボタンを押すことがあり、押した後に後悔をしたことが何度かある。
かつて「多品種少量生産」という言葉があった。簡単に言えば、ニーズの多様化に応える生産方式のことだが、今は「少量」ではなく「大量」である。菓子類にしてもカップ麺や冷凍食品にしても、他社とは異なる類似商品が溢れんばかりだ。もちろん、この傾向は食品業界だけではない。消費者に向けられた商品のほとんどが「多品種大量生産」だと言っていい。
市場のニーズを際限なく追求していく商品経済は、高度経済成長期に生じた公害や環境破壊のような影の問題を抱えてしまうのではないかと危惧する。否、すでに抱えているのかもしれない。
先日、時間帯指定の宅配サービスがパンクしたという報道があった。あれは度を越すサービスによって生じた経済の瓦解現象だ。サービスの過剰を強いられる今の市場原理が続いていけば、他の業種においても瓦解現象が起きていくことは不思議ではない。
「贅沢は敵だ」と言わされてきた時代があった。今まさに、国民が自らに問うべき言葉なのではないのか。ジュースはオレンジジュースだけでいいし、カップヌードルも一つか二つあれば十分である。