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【街景寸考】即席ラーメンのこと
Date:2017年05月03日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
初めて即席ラーメンを食べたのは高校生の頃だ。棒状マルタイラーメンである。当時、即席ラーメンと言えば、これしか知らなかった。昭和41年頃である。即席のちぢれ麺の類は、まだチキンラーメンだけだったと記憶している。
昨今のような色々な袋麺やカップ麺が出回るのは、まだまだ先のことである。棒状マルタイの味は、豚骨味でもなく味噌味でもなく、醤油味に近かったように記憶しているが定かではない。食感は、多少生めん風だったように思う。
棒状マルタイを食べたのは近くの友人宅だった。試験前、一緒に勉強することがあり、深夜になって腹が空くと友人は2人分を作ってくれることがあった。食べた後、ちょっと横になるつもりが、そのまま朝まで眠り込むことが多かった。予定の勉強まで進まずいつも後悔していたが、棒状マルタイを食べた満足感がその後悔の穴を埋めてくれていたように思う。
大学時代の東京には棒状マルタイがなかったので、「チャルメラ」や「出前一丁」などのちぢれ麺を食べるしかなかった。朝と晩は毎日のように食べ、この食生活を1年ほど続けた時期があった。昼は食堂で定食を食べたり、学食で食べたりしていた。
悲壮感はまるでなかった。食べるたびに即席麺は美味しかった。食い飽きたと思っても、食べ始めたらその美味しさのあまり、音を立てながら勢いよく掻き込んだ。食べ終わるたびに心が満たされていた。
晩のラーメンには生卵を入れて掻き雑ぜた。今思えば、モヤシも入れておくべきだったのにと後悔している。安く買えるモヤシを入れなかったのは、そこまで気が回らなかっただけのことである。当時、スーパー等で野菜類を買うような思考回路はなかった。
晩に生卵を入れていたのは、少しでも栄養補給をしておきたかったからだ。この食生活が祟って、栄養不足になった。ウンコが硬くなって肛門で詰まるようになったので、友人の保険証を借りて肛門科に行ったら、医師から栄養不足だと告げられたのだ。栄養不足と便秘に相関性があることを、このとき初めて知ったのだった。
先日、カミさんと隣町のスーパーへ行ったとき、久しぶりに棒状マルタイを見た。袋のデザインは昔のままのようだった。そのデザインを見ていたら、直ぐに友人宅でのことが浮かんできた。ついでに大学時代の硬いウンコのことも想い出していた。