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【街景寸考】脇役のラジオに親近感
Date:2017年05月24日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
幼少の頃に聴いていたラジオ番組が、何かの拍子で脳裏から転がり出てくることがある。まだ多くの人々が茶の間でラジオを聴いていた頃なので、昭和30年前後に放送されていた番組だと記憶している。
まず、先に転がり出るのは「三つの歌」という番組だ。庶民に親しまれる古い歌や新しい流行歌を、一番の歌詞だけ出場者が3曲歌うというものだ。どんな曲を歌わせられるのかピアノの演奏があるまで分からないという趣向だ。この番組の妙味は、司会をしていた宮田輝アナウンサーのユーモアある手助けにより、出場者が四苦八苦しながら最後まで歌おうとするところにあった。
「三つの歌」に続いて放送されていたのが「お父さんはお人好し」である。喜劇俳優の花菱アチャコと女優の浪花千栄子が出演する、大阪を舞台にしたドラマだった。子どもだったので筋立てはよく解らなかったが、滑稽で調子の良い関西弁の語り口が聴こえてくるのが面白く思えた。まだ見たこともない大阪の下町風情に親しみを感じることもできた。
「とんち教室」という番組もあった。「むすんでひらいて」の曲で始まり、先生役の青木アナウンサーがとんち問題を出し、生徒役の出演者たちが珍回答をして視聴者を笑わせるという番組だった。「生徒たち」の出席を確認する青木先生が、漫画家の長崎氏のことを「長崎バッテンさーん」と甲高い声で呼んでいたのが、今でも聴こえてくることがある。
今、ラジオを聴くのは自家用車に乗っているときぐらいだ。落語か昭和歌謡が流れているときには耳を傾けるが、他に聴きたいような番組はない。探せば面白い番組もあるのだろうが、車に乗っている間だけなので、そこまでの気持ちはない。
あの時代、ラジオは茶の間にいる家族を元気にしてくれる重宝な脇役だった。テレビの時代になると、茶の間の主役は家族からテレビに変化した。娯楽の少なかった当時、テレビは庶民に大歓迎されてはいたが、一方で時間や心の自由を束縛されてきたのも事実だ。偏った色眼鏡をかけさせられ、精神をいびつにさせられてきたかもしれない。
今、テレビに替わりスマホが人々の生活の中に大きく割り込んできた。個々の生活や精神に与える影響は、テレビ以上に大きいように思える。こうした機器へ過度に関わることにより、人情の機微や温もりまでがそぎ落とされていくのではないかと心配することがある。
そういう意味では、今でも脇役に留まり続けるラジオに親近感を覚えてしまう。