【街景寸考】「頭の良さ」と「賢さ」

 Date:2017年07月19日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 「このハゲーッ」「このバカーッ」などの暴言、暴行で、豊田真由子議員は一躍有名人になった。テレビ局によっては、豊田議員の陰と日なたの違いを意図的に映像化していた。陰と日なたは誰にでもあるものだが、豊田議員の陰と日なたはあまりにもかけ離れたものだった。今でもあの暴言が、耳の奥深くに突き刺さったまま、わたしの中に記憶されている。

 いくら車の中だとはいえ、普通あそこまで自分のはしたない部分を曝け出すのは珍しく、ただ驚くばかりだった。激怒の最中とはいえ、秘書の人間としての尊厳を深く傷つけ、普通であれば本人自身も自己嫌悪に陥ってしまうような言動である。もっとも彼女の場合は、こんなことくらいで自己を嫌悪するようなヤワな人間ではないということか。

 議員にとって秘書というのは、自分の分身のような存在であるはずだ。夜討ち朝駆けで支援者、有権者と顔を合せ、選挙に備えて票に結びつくよう票田を耕し、種を撒いている人たちだ。議員は彼らと信頼関係を構築する能力がなければ、選挙活動もうわべだけのものとなり、票田を実らせることはできない。

 豊田議員に、こうした認識があったようには到底思えない。秘書を下僕のように扱い、見下した言動などが何よりの証拠である。今回の暴言の数々は「ついカッとなって」という言い訳のできる余地はない。普段から思っていた本音が、たまたま激怒した勢いの中で現れただけのことである。

 こうした類の人間は、凡庸なわたしから見ても頭の悪い人間だとしか思えない。損得勘定からしても、秘書を大事にし、秘書から信頼される議員であることが得策であることは明らかである。豊田議員はこの単純な損得勘定さえ解らなかったということになる。だから、頭の悪い人間だと思った。

 ところが彼女は、東京大学を卒業後、厚生官僚になり、ハーバード大学大学院へ国費留学をしたという華麗なる経歴の持ち主なので、文句なく頭が良い人間の類だと言わなければならない。頭が悪いとも、良いとも言い難い彼女のような人間は、「賢さ」という物差しで測ってみると分かりやすい。

 豊田議員は頭が良いことには違いないが、賢い人間とは言い難い。「賢さ」とは、道徳観をもって感情を上手に制御できる能力を具えていることである。いわゆる、品性に通じる人柄のことである。豊田議員には、この品性というものがない。

 政治家には、まず何よりもこの品性が具わっていてほしい。