【街景寸考】「聞き下手」のこと

 Date:2017年08月09日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 人の話を聞いていても、言葉が頭の中に入ってこないことがある。耳に疾患があるわけではなく、脳みその状態もそんなに悪い方ではないと思っているので、わたしの性格に起因していると思うほかない。

 性格について言えば、まず「おっちょこちょい」であることを挙げなければならない。小学生の頃、通信簿によく書かれていた。人の話を落ち着いて聞くのが苦手なのか、早合点してしまう傾向がある。

 気が短いところにも原因がありそうだ。相手の話がちょっと長めになると、聴こうとする気持ちが希薄になってくる。加えて、小心者なのか、大事な話のときほど頭が硬直して、言葉があらぬ方向に弾かれていくような感覚になる。

 電話での会話も苦手であり、相手の表情や動きが見えないせいか、簡単な内容でもしばしば正確に聞き取ることができなくなる。まるで言葉が暗号のように聞こえてきて、解読するのが難しいと思うような状態になることもある。特に、電話の相手が「立て板に水」のように喋ってくるときに、そうなる。

 聞いている言葉がスムースに入ってこない原因は、ほかにもある。実はわたしの場合、話の中身よりも、相手の表情や内心ばかりに気を取られてしまうことだ。初対面の相手のときは、特にその傾向が強くなる。こういう性格であると自覚するようになったのは、人生も後半になってからのことだ。

 現役を退いた今、話し相手は主にカミさんであり、次に野球・ソフトボールの仲間や近所のオヤジたちである。彼らとの会話で余計な神経を使うことはまずない。従って、頭が硬直することもないし、言葉がどこかへ弾かれて行くこともない。会話をするのに神経を使わないですむので、耳はいい加減な状態のままでいい。

 いい加減な状態でも、気が咎めることはない。適当に相槌を打ち、適当に愛想笑いをしているだけだが意思疎通は十分にできている。

 こうした話し相手が何人もいるというのは、幸せなことである。お互い耳が遠くなっても、交流可能な関係である。