【街景寸考】フユザクラとソメイヨシノのこと

 Date:2018年02月14日08時01分 
 Category:エッセイ 
 SubCategory:街景寸考 
 Area:指定なし 
 Writer:大昭寺いさじ
 桜の仲間にフユザクラというのがある。その名のとおり冬場に花を咲かせる桜である。この花は、冬場とは別に4月頃にも花を咲かす珍しい品種でもある。そのフユザクラが自宅近くの運動公園に、ソメイヨシノに紛れて植わっている。

 白くて小さな一重咲きの花びらなので可憐に見えるが、冬の寒い中に咲き続ける根性は半端ではない。2月初旬に降った大雪の後でさえ、まだ大半の花びらが多少萎れながらも、細い枝にへばりついていた。

 フユザクラはソメイヨシノよりもだいぶ小振りであり、白い花びらも純白のような輝きはないので、人目につきにくい。特に、他の桜が一斉に咲き乱れる4月頃は、目立つことがなく、ほとんど忘れ去られた存在になる。

 その存在を知るとすれば、木々が花も葉も落としている冬場しかない。それでも、一輪一輪が控え目に咲く花びらは悲しいほど希薄だ。希薄ではあるが、凍てつく冬場に思わず目にしたときは、少しだけ心を暖かくさせてくれる。

 控え目な花だけに、もっとこのフユザクラを人々に知ってほしいと願う。そのためには、是非ソメイヨシノなど他の桜とは別個に植えるしかない。密に植わっていればなおいい。そうすれば、寒い冬場でも人々の心の暖を取ってくれること請け合いである。フユザクラの価値は、まさにそこで発揮することができる。

 先日、夕暮れ時の運動公園に行き、大雪に見舞われた後のソメイヨシノを見てきた。蕾は消し炭のように黒々としていて、手で触ると凍っているように硬かった。この蕾が3月になると、緑色を帯びて少しずつ膨らみ、柔らかになってくる。並行して先端部分にピンク色をのぞかせてくる。

 3月下旬から4月初旬、桜前線がやってきて一斉に咲き始める。そして満開のときを経て、一気に散ってしまう。ソメイヨシノの散り際が潔く思えるのは、葉っぱがないという背景も一因にある。咲き誇った状態から花びらが舞い散る風情は、人々に感銘を与え、人生の晴れがましさと切なさを感じ入らせてくれる。その有様は、フユザクラとは対照的だ。

 ソメイヨシノの花言葉は「優れた美人」であり、フユザクラは「冷静」である。葉っぱがなくても、花びらだけで美を醸し出すソメイヨシノにぴったりの花言葉であり、可憐に見えながら、ひたむきに寒さに耐えるフユザクラの花言葉にも、異論はない。

 春は、すぐそこだ。