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【街景寸考】感触を得た一場面
Date:2018年06月27日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
先日、米朝首脳会談がシンガポールで開催された。史上初めてのことである。2、3カ月前までは予測できなかった展開だった。それほど最近までの両者は、口汚く罵り合う関係だった。その両者が婚活会場でお気に入りの相手と出会ったときのように、何度も握手し、微笑み合っていた。この変わり様に、多くの人々も戸惑っていたに違いない。
これが個人間のことであれば、お互いに抱いている恨みや憎しみの感情が先走り、いきなり微笑み合ったりするのは簡単にはできることではない。しかし国家間の場合では、感情の入り込む余地はないことはないが、つまるところ国益を優先しようとする知恵が働くため、予想外の展開になっても不思議なことではなかろう。
ましてや、海千山千のトランプ氏であれば、上っ面だけの握手や微笑みで仕掛けるのは造作もなかろう。なにしろTPPやイラン核合意から離脱し、米大使館をエルサレムに移転し、25%の追加関税を発動するなど、周りを驚かせたり騒がせたりしても平気な顔をしているトランプ氏である。
ところがわたしにとっては、こうしたトランプ氏の品のない単刀直入な物言いだからこそ、各国の本音も見えやすくなってきたように思う。日本の政治家のような言語明瞭・意味不明な言い回しではないので、以前よりも国際政治が分かりやすくなってきたのは確かだ。
ともあれ今回の首脳会談は、両者の内心はどうであれ、とりあえずよしとすべきではないのか。評価をしない声もあるが、しばらくは金正恩氏の非核化への本気度を期待してみてもよいのではないか。実は、わたしにはそう思えるような感触を得た一場面があった。
両者の会談は、年齢や交渉経験の差からだろうが、明らかに金正恩氏の方がトランプ氏より緊張しているように見えた。握手をする場面では、常にトランプ氏が先に手を差し出し、空いた左手で金正恩氏の肘や肩に優しく触れていた。両者が並んで歩き始める際も、エスコートするように金正恩氏の背中に手のひらを軽く当てていたのもトランプ氏だった。
ところが、金正恩氏の方がトランプ氏の背中に手のひらを当てた場面が一度だけあった。確か合意文書に署名をした後、両者が椅子から立ち上がって会場から引き揚げているときだった。感触を得た一場面というのは、この場面のことだ。この金正恩氏のパフォーマンスは、相当勇気のいる行為だったに違いないと思えた。
この場面のことだけで金正恩氏に非核化を期待しようとするのは、安っぽい感傷からかもしれないが、それでもその期待を捨て切れない自分がいる。