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今春、めでたく?花粉症に
Date:2012年06月04日15時57分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
今春、とうとう花粉症にかかった。花粉症といえば、軟弱な都市生活者のためのハイカラ病だという思い込みがあった。したがって、花粉まみれの中で育った私には全く縁のない病だと思っていた。若い時分、「おれはスギ林の真ん中で深呼吸をしてもぜんぜん平気だ」と、憎まれ口を叩いていた。それくらい、花粉ごときに負ける気がしなかった。もっともその自信の裏側には、都市生活者と同じように花粉症にはなれないという引け目みたいなものもあった。
ところがである、この春、風邪でもないのにクシャミが出、鼻水が滴れ落ちた。目もショボショボしたり、パサパサする症状が続いた。初めての経験であり、その様は紛れもなく花粉症に違いないと素人ながら診断した。
早速、外出時にそれが特権でもあるかのようにマスクを被った。案の定、近所や職場の人たちから「風邪ですか、花粉症ですか」とあいさつがわりに聞かれた。聞かれるたびに「花粉症みたいです」と答え、そう答えながら昇格人事を報告しているような誇らしさを感じていた。
ところで、そのマスクの効用について触れる。
花粉を防御する効用以外の効用のことである。マスクはそれを被っただけで、その人の正体や表情が世間から見えにくくなるのは言うまでもない。被ったことがある者なら同調できるはずである。従って、美人を街角で見つけたときは、スケベ面のままで眺めていることができるし、日頃気に食わない近所のおやじと出くわしたときは、マスクの中で思いっきりベロを出すことも自由だ。何よりも、知っている人がいてもいなくても、のっぺらぼうのままで遣り過ごしていいから疲れない。人に合わせた表情をいちいち造らなくてもいいということがこんなに楽になれるのかと、あらためて思った。
はてさて、小生を悩ましている花粉の正体はスギかヒノキかマツなのか。原因となる花粉は50種類以上もあると知って驚いた。ちゃんと治療すれば治るという情報もあれば、治りにくいという情報もある。個人差も当然あるに違いない。
マスクの「効用」を密かに楽しみながら、この新たな侵略者に挑んでいきたい。