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【街景寸考】新手の悪夢のこと
Date:2018年11月28日08時01分
Category:
エッセイ
SubCategory:
街景寸考
Area:
指定なし
Writer:
大昭寺いさじ
いつまでも定職にありつくことができずに、途方に暮れる自分の姿を夢に見た。同じような夢を最近二度見たことになる。夢の中の自分は30代後半のように見えた。現実世界のこの頃の自分はすでに定職に就き、結婚もしているはずなのに、夢の中では未婚、無職のプー太郎だった。プー太郎のわたしは、いつまでも社会の一員になることができないことへの劣等感や焦燥感に苛まれながら、白々とした街をさまよい歩いていた。
これまでの悪夢は大学時代のものばかりだった。家賃を払えずに困り果てている夢、お金を借りようと電車賃を節約し、友人の住むアパートにやっとの思いで辿り着いたら留守だったという夢、履修単位数の不足に当惑しながら担当教授を学校中探し回っている夢、盆か正月に帰省するための旅費を稼ごうとバイト先を探し回っている夢。
数年前からこの手の悪夢は見なくなったと思っていたら、新手の悪夢にうなされるようになったみたいだ。夢の中でさまよっていたのは、外苑通りのようでもあり原宿か渋谷の街並みのようにも見えた。わたしは、いかにも何処かへ向かっているようなふりをして歩いた。無目的にふらふらと歩いていると、いかにもプー太郎のように思われるからである。
どこかの駅の改札前まで来たわたしは、その流れで切符を買い、改札を通って階段を上り切ってみた。プラットホームに出てみると、そこはたくさんのホームが並ぶJR新宿駅だったということが分かり、自分の立っているのが山手線外回りのホームだということも分かった。入って来た電車に乗ると、偶然にもドアの入口付近に大学の友人が二人いるではないか。更に驚くことに、その彼らのそばに二人の中学時代の友人もいたのである。
わたしは躊躇なく「オオッ」と感激の声を発していた。大都会の中でわたしのことを知っている人間と出会えたことが嬉しかった。しかも一度に四人も。彼らはわたしの大きな声の方を向き、目を丸くしながら笑顔で応えてくれた。そんな彼らを見ながら自分の中で心が癒されていくのが分かったが、自分がプー太郎であることの不安や焦燥感までは溶けていくことはなかった。
この新手の悪夢の出処を探ってみたが、やはり自分の不勉強に悩み思い詰めていた大学時代のことや、将来への不安や恐怖に怯えながら職を転々としていた20代の頃のことが元にあるとしか思えなかった。まさか天国にいる母が、隠居同然の今のわたしに「まだ働かんか」と喝を入れているのかもしれないとも考えてみたが、見当違いのように思えた。
ともあれ、自分の人生は紙一重でプー太郎のままだったかもしれないという思いは今もどこかにある。そういう思いが潜在意識の中に根強く残っていて、それが心的外傷に似た症状として現れているのかもしれない。あの頃の心の傷の深さをあらためて思う。